2014年05月17日

【 薔薇 の 精 】

● 薔薇の花が、美しい時季となりましたネ。

 亡くなられて かなりの時が過ぎましたが、「 薔薇の季節 」 になると、薔薇の館 ( やかた ) の主 ( あるじ )・ 伊藤克三さん のことを思い起こします。
 毎年 ・ 毎年、ステキな薔薇たちと 出会わせてくださいました。

 お世話になった 伊藤克三さんを偲びつつ ・・・・・ 

              【 薔薇 の 精 】

 何か、とってもすてきな一日だったのです。話させてくださいますか?

 5月15日(火)、一年生の遠足で、長岡天神へ。心配していた中川さんも元気そうで、始めから気分がよかったんです。
 電車は、三校がいっしょになって、満員でした。私は、中川さんやクラスの子どもたちと一緒に、進行方向左側のドアから、外の景色を見ていたのです。
 高槻市駅を過ぎて、大阪医大の建物が視界から消えてすぐぐらい、家全体がばらではないのかな、と思うような美しいかたまりが、目の中にはいってきて、また消えていったのです。でも、心の中に、ばらの数々が焼き付けられ、香りをただよわせだしたのです。
 帰りの電車で、もう一度見られるのも楽しみでした。今度は、まわりの子どもたちにも知らせながら見ましたよ。

 遠足から帰ってきて、家庭訪問とひと仕事。時刻が5時をまわり、少し疲れていたけれど、家でゆっくり休みたい、という気持ちを振り切って、何かに引かれるようにして、出かけていったのです。―― 電車から見た、あのばらの花あふれる家へ。

 ピンク、明るい赤、白。
 とても数え切れないほどの多くのばらの花が、どの花もしあわせそう。喜々として風にゆれている。ばら達がうたう、声なき歌が聞こえてきそう。葉っぱが奏でる音楽が聞こえてきそう。
 黄、真紅。
 ばらとは思えないくらい太い幹。金網の垣にからませて、ばらの垣根となっている。根っこのところには、わらや肥料らしきもの。大事に、大事にそだてているという感じ。

 ここまで咲かせるためには、当然のことながら、手入れがなされ、咲かせようとする限りない愛情がなければならないことだろう。放っておいて咲く花は、それだけの花だ。野生のままでは、ここまでの美しさはない。造物主は、人の苦労を勘定に入れて、美しさを与えている。

 入口の上も、ばら。
 表札を見る。薔薇館の主(あるじ)の名は、伊藤克三さん。
 失礼をかえりみず、そっとのぞいてみる。内庭も、ばらばかり。ばらを愛し、こよなく愛しているもので、まわりをとりかこんでいる ―― という感じ。
 主人とご一家の心が伝わってくる。
 根元はやはりワラでおおい、手厚く育てられている。どの一本も、おろそかにされていない。それぞれが本当に、喜々として咲いているのだ。
 花は、愛情で育てていくものだ。幹や葉の色つやが違う。

 淡いピンク、淡い黄。
 花が咲いている時には、人は関心をもつが、美しい花の命はみじかい。1年365日の内の、300日以上は苦しい日々であろう。苦しい中に、喜びを見出していく日々であろう。
 あれもこれもではなく、徹底してばらのみを追求し、ばらにおける完全を期している。
 それ故に、それぞれが美しく咲きながら、全体としてのとてつもない、大いなる美しさ。一つのばら、数本のばらでは、とても出せない美しさがここにはある。

 今咲いている花、まもなくの開花の準備をしている花。
 何分いただろう。多くの人は、そばを通るが、きれいなあ、すごいなあ、というだけかもしれない。じっと見つめていたい。
 白い服の高校生ぐらいの少女が、仲間に加わった。行きつ・・・・ もどりつ・・・・ 少し離れて、メモを取りながら見ている私の前を。
 ピンクのばらに顔を寄せて、ばらの香をかいでいる。

 あ、そうそう。ばらの香りのことを忘れていた。私もばらに顔を近づけて、香りをかいでみたくなった、あの乙女のように ―― そう思って一歩を踏み出した時、その少女が私の方に近づいてくるではないか。
「 家は反対の方角なんだけど、花に魅かれてここに来たんです。」
「 実は私もそうなんです。今日、長岡天神へ・・・・・ 疲れていたけど来てみたんですヨ。」
 白ばらのように、清純な感じの少女であった。

「 お家はどこですか?」
「 上本町、高槻小学校の近くなんです。」
 夢を見ているような、不思議な時間が過ぎてゆく。
「 これ、スターリングシルバー というんだと思うけど、香りがほかのばらのように甘くはないのネ。青いばらがまだつくられていなくて、これが一番近い色。何となく寂しそうなばらで、好き。
 家でも少し作っているんだけれど、赤だけだから少しつまんない。」
 スターリングシルバー。ライラックのような、強い香りがした。
「 もう帰らなくては。英語のレッスンがあるんです。さようなら。」

 少女と別れて後、心ゆくまで香りに酔う。
 香りばかりではない。恋人のように口づける。甘い香りがただよう。はずかしさをかくして、この花、あの花にも・・・・・・・・。
 花がふるえている。日もくれはじめ、風も少し出てきた。少しさむくなってきちゃった。
 名残りはおしいけど・・・・・ さようなら、さようなら・・・・・ おやすみ・・・・・。
 ふりむかないで帰るからネ。

 自転車をこぎながら、先ほどの少女は、【 薔薇の精 】 ではなかったのかな、とふと思った。

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posted by ukon3 at 12:16| Comment(0) | 花鳥風月 いろいろ
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